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雨の詩

夕食どきだった。彼はどこで食事をしたらいいかわからなかったので、通りの街灯の下にたたずんでいた。突然、街灯が点り、石畳の上に複雑な光を扇のように広げた。なおも彼が立っていると、稲妻が光った。通りにいる人間がみんな顔を空に向けた。そうしなかったのは、彼と彼女だけだった。川を渡る一陣の風が、腕を組んで、回転木馬のように飛びはねて遊んでいる子どもたちの笑い声をこちらに投げかける。川風に乗って、窓から身を乗り出して子どもたちに叫んでいる母親の声が聞こえてくる。雨よ、レイチェル、雨よ―雨が降ってくるよ! 花売りが、片目で空を見上げながら、雨やどりの場所を探して走っていく。グラジオスや蔦のある花を積んだ荷車が今にも壊れそうな音をたてる。ゼラニウムの鉢がひとつ荷車から落ちる。小さな女の子たちが落ちた花を拾い集めて、耳のうしろにさす。駆け出していく人間たちの足音と雨の音がまじり合い、歩道で木琴のような音をたてる。―さらに、ドアが急いで閉められる音、窓がおろされる音が聞こえてくるが、そのうち、あたりは静かになり、雨の音しか聞こえなくなる。やがて、彼女がゆっくりとした足どりで、街灯の下に近づいてきて彼の横に立つ。空は、雷で割れた鏡のように見える。雨がふたりのあいだに、粉々に砕けたガラスのカーテンのように落ちて来たからだ。

「無頭の鷹」カポーティ(川本三郎訳)